「らんまん」で、寿恵子(すえ子)がはまっている「里見八犬伝」は、江戸時代の伝奇小説。
どんなお話で、何が魅力なのでしょう。
ここでは、曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」の
〇あらすじ
〇テーマと読者
についてご紹介します。
1「八犬伝」のあらすじ
「南総里見八犬伝」は、8人の剣士が呪いと戦う冒険活劇ファンタジーです。
1)簡単あらすじ
ひとことで言えば、
というお話です。
2)時代背景
ときは、室町時代中期。ところは、安房国(あわのくに)(現在の千葉県)。
このころ、関東は幕府の統治が及ばず、応仁の乱の前から群雄割拠の騒乱がつづいていました。
玉梓に呪われる里見氏の里見義実(よしざね)は、当時の安房国の武将の一人。*のちに房総地方を支配する戦国大名、安房里見氏の祖とされます。
3)ストーリー
1)玉梓(たまずさ)の呪い
安房国の豪族の妻だった玉梓(たまずさ)は、臣下と密通。夫はこの臣下に殺されてしまいます。
近隣の里見氏は安西氏などとともに、この逆臣と玉梓を処刑します。
玉梓はこれを恨んで、
と呪いをかけました。
2)八犬士がうまれるまで
里見氏の娘:伏姫(ふせひめ)は、3歳まで口をきけませんでした。←たまずさの呪い
でも、鬼神をも使役できるという役行者(えんのぎょうじゃ)の化身から水晶玉の数珠を与えられて話せるようになり、すくすく成長しました。←役行者の法力
姫が娘になったころ、それまでは仲間だった安西氏が、里見家に攻め込んできました。
里見家は劣勢。食料も底をついてきました。
里見氏は、伏姫の飼い犬:八房も飢えてやせているのを見て、いじらしくなり「敵の大将を食い殺したら、姫を嫁にやろう」と冗談をいいます。
すると、なんと八房は、敵の大将の首をくわえてきたではありませんか。←たまずさの呪い
里見氏は、ほんのざれ言として無かったことにしたかったのですが…。
姫は「約束は果たすべきです」といって、犬とともに山にこもってしまいました。
1年ほどして様子をみにいくと、伏姫はおなかが大きくなっています。
伏姫の婿になるはずだった金碗大輔(この家系も玉梓に呪われている)は、犬の八房を矢で射殺します。
伏姫は、「自分は犬の八房はもちろん、誰ともまじわらぬままお腹が大きくなった。何が入っているのかはっきりさせたい」と、自らお腹を切り裂きます。
するとお腹から白い「気」が立ち上がって数珠を宙に舞いあげます。←役行者の法力
数珠の中の大きな八つの玉は、輝きながら宙を舞って、やがて四方に飛んで行ってしまいました。
そして伏姫は、死後、八犬士たちの守り神となりました。
金碗大輔は出家し「`大(ちゅだい)法師」と名乗って、八つの玉を探す旅に出ました。
3)八犬士のたたかい
八人の犬士たちは、水晶の玉と体のどこかにあるぼたんの形のあざを通じて、お互いをみつけ、仲間となっていきます。
「`大(ちゅだい)法師」とも出会って、さいごには、里見家を救うために戦うのですが、それまでに、
・それぞれ自分の仇を討ったり、
・指名手配されたり、
・玉梓にあやつられる女(舟虫)に何度もだまされたり、
・化け猫を退治したり、
…と紆余曲折がつづきます。
なかなか最後までいきません。全98巻106冊ですものね。
✔「桃園の義」を結びぬ
一人、二人と出会っていく犬士たちは、義兄弟の約束をします。
「桃園の義(とうえんの義)」を結ぶんですね。
寿恵子が本を抱きしめて身もだえした^^シーンは、信乃(しの)と現八(げんぱち)が、義兄弟の約束をしたシーンでした。
見八(現八)はつくづくと、その玉を見つ、痣(あざ)を見つ…。
ついひにおのおの玉を取りて…もろともに跪き(ひざまずき)、天地を拝し、誓いを立てて、かの桃園の義を結びぬ。
桃園の義は、BLというわけではなく^^たがいに信頼しあって裏切らない、血のつながった兄弟のような同志になったということです。
*「三国志」の劉備、関羽、張飛が、心を同じくして助け合う義兄弟となる誓いを結んだという逸話がもとになっています。Wikipedia
信乃は人気のキャラクター。
お兄さんたちが幼くして亡くなったので、小さい頃は女の子として育てられました。美形です。父母をなくして、おじやおばからいじめられますが、くじけず強く育つオーソドックスな主人公キャラです。
↓青い鳥文庫では、正面が信乃。
現八(げんぱち)も男らしく魅力的です。頬にぼたんのあざがあるのは彼。
捕り物がうまく、追われている信乃を捕まえるという立場で、出会いました。*屋根の上での二人の攻防「芳流閣の戦い」は、歌舞伎でいちばんの見せ場でした。
戦いのあとで、信乃と、現八の生き別れた父が知り合いであるとわかり、また互いが同じ玉とぼたんの形のあざをもつ同志だと知って、桃園の義となりました。
二人とも、かっこいいです。
らんまんの34話で、信乃と現八が、仲間の危機を救うために「されば同盟の義によって、われらが成敗する」と敵に名乗りを上げるシーンがありましたね。
寿恵子が草になって見ていたい気持ちもわかります。
八犬士の名前と玉の文字
4物語の終わり
八犬士は、かたき討ちや、呪いとの戦いの途上で、関東管領 扇谷(おうぎがやつ)の恨みをかいます。
扇谷は、他の管領とともに里見家を攻めますが、勝ったのは八犬士たち。これが最後の戦いでした。
八犬士は、里見家の八人の姫をそれぞれめとります。*くじ引きで相手を決めました!
水晶の玉は白い玉になり、ボタンの形のあざも薄れて消えてゆきました。
そして20年たったころ、犬士たちも、子どもたちと話をしたあと忽然と消えてしまいました。
…おわり。
史実では、里見家は、のちに戦国大名として房総を領地としました。
2テーマと読者
1)「八犬伝」のテーマ
良きをすすめ、悪をこらしめる「勧善懲悪」の物語です。
作者の曲亭馬琴は、このころの日本人の大切な価値観や信仰をすべて取り入れました。
:八犬士の八つの玉に浮かび上がる「仁・義・礼・智・信・忠・孝・悌」の文字。犬士たちは、この儒教の教えにしたがった生き方をしていきます。
:玉梓の呪いに対抗する水晶玉をさずけたのは、役行者の化身(修験道の法力)。
:伏姫は神霊となって犬士を守りました。
:犬士を見つけだし使命を伝える「`大(ちゅだい)法師」は仏僧です。
「八犬伝」は、わくわくハラハラ面白いだけでなく、良くありたい、悪人はこらしめてほしいという人々の心をつかみました。
2)読者と人気
江戸時代、文化・文政のころ、1814年から1842年にかけて出版された「南総里見八犬伝」。
全96巻106冊が、28年かけて、毎年5冊位をセットで発行されました。
八人の犬士は、美形、力持ち、やや単純、頭でっかち、知恵者、ツンデレ風、無敵、などキャラが立っていて、みな勇敢で信頼できます。
読者もお気に入りができて、次の巻の発行を楽しみにしました。
「八犬伝」は初めのころから大人気。話の途中まででも歌舞伎になったりグッズが出たりしています。
読者は、漢文や漢字かな交じり文が読める人たち。
江戸時代中頃(1740年ころ)には識字率が高まり、武士はもちろんですが、町民や農民の50%が漢字かな交じり文が読めたとされます。
当時「八犬伝」のような読本は高価だったので、下級武士や町の人たちは、貸本屋で借りて回し読みしました。
でも、寿恵子のお父さんは上級武士。全巻(98巻106冊も!)買うことができて、寿恵子はそれを形見としてゆずり受けたんですね。
*寿恵子の部屋に散乱していましたが、ぜんぶ積み上げると1mほどになるそうです。
寿恵子が「八犬伝」を万太郎に読んでもらおうとした1880年ころは、まだ西洋の本は広まっていませんでした。*最初の翻訳本は、1878年のジュール・ベルヌの「新説八十日間世界一周」。
「八犬伝」は、丈太郎や田邊教授のいう「古くさい」本ですが、話しことばと書きことばが一致する日本文学も、まだこれから。
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終わりに
「八犬伝」は長すぎて、全巻を現代語訳した本は出ていません。
楽しくかんたんに味わうには、子ども向けの本をどうぞ。映画やアニメは原作とちがったりします。
八人の犬士のキャラが立っていて、明治初期に生きていたらきっと夢中になった馬琴先生の本。
今も、作家さんたちのイマジネーションを刺激しています。