NHK朝ドラ「らんまん」の週タイトルになっている草花たちの写真と生態をご紹介します。
脚本の長田育恵さんは、
らんまんが終わったときには、「万太郎の植物図鑑が出来上がっているように―
―見渡せばそれは、たぐいまれなる出会いの数々だったと、「人」が咲き誇っているかのように。
といいます。
これからどんな草花と人たちの図鑑になっていくのでしょうか。
東京での新生活はじまる
高知で、タキや綾、竹雄と、満開のヤマザクラを惜しんだ万太郎と寿恵子。
第14週からは、東京で植物学者とその妻として新しい章に入ります。
ー万太郎が目指すもの
新種の植物の命名をするには、その植物を発見するだけでは足りません。
過去に発表されたどんな植物とも違うことを、「植物命名規約」にもとづいて「記載論文」として発表しなければなりません。
「マルバマンネングサ」は、新種として論文を発表したのがマキシノビッチ博士。
万太郎は発見者として、種小名に献名してもらえました。Sedum makinoi *”牧野の”と所有格になっています。
そして、このあと最後に、分類し命名したマキシノビッチ博士の名が添えられます。
この Maxim が Makino になること。
…ここが、万太郎の目指すところです。
何の身分もない万太郎が、一人の植物学者として世界に認められるために、万太郎と寿恵子の新しい冒険が始まります。
第14週「ホウライシダ」
-第14週の草花:ホウライシダ
ホウライシダは「アジアンタム」という名でよく売られています。
きれいで繊細ですが、水やりの加減が難しいです。田邊教授のように…美しく複雑で扱いにくい…。
…シダなので花は咲かず、葉っぱのふちに黒っぽい胞子嚢がつきます*学名の最後の L.は「植物分類学の父」リンネの略です。
-14週のひと
ホウライシダは、田邊教授が自宅の庭に植えているシダの一つ。
田邊教授が万太郎に「私のものになりなさい」という強権さと、妻の聡子とのあたたかいやりとりがともに紹介される週でした。
田邊教授がシダを好きなわけは、
「シダは花も咲かせないし、種もつくらない。
だが花が咲く植物よりも前に地球上に存在していた。
太古のむかし、胞子だけでふえるシダ植物は陸の植物の覇者だった。
シダは、地上の植物の始祖にして永遠なんだ。」
ー第70回ー
第15週 ヤマトグサ
-第16週の草花:ヤマトグサ
日本にしかない日本の固有種で、和名も「ヤマトグサ」。
![](https://hanasjoho.com/wp-content/uploads/2023/07/512px-Theligonum_japonicum.jpg)
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
…1本のヤマトグサに、雄花と雌花が咲きます。白くきれいなおしべがあるのが雄花。
-16週のひと:大窪さん
助手の大窪さん(実際の大久保教授)といっしょに、ほかのどんな植物とも明確に違うとする「記載論文」を発表しました。
学名は、
”et”はラテン語で、日本語の「と」という意味です。「大久保と牧野」ー連名ですね。何か嬉しい…。
ヤマトグサは、トガクシソウに次いで、日本人が学名を命名した2番目の植物となりました。
*トガクシソウは、つらい記憶を残してしまいました。
良家に生まれて、なかなか成功できず苦しんだ大窪さん。
万太郎と話し、ともにひたすら研究できて本当によかった。
第16週 コオロギラン
-第16週の草花:コオロギラン
万太郎は、サキさんの法事で高知に里帰りしたときに、この花を発見しました。場所は、おなじみの横倉山。
花の形からコオロギを連想して「コオロギラン」と名づけたそうです。白くて大きな花弁のようなものが、羽を開いたコオロギに似ているような…?
↓カマドコオロギ
↓コオロギラン
→「コオロギラン」の花の写真は、高知県立牧野植物園サイトのMakino Botanical Club「④牧野博士が描いたラン」の画像の一つとして見ることができます。
*キジカクシ目には、ランのほかにアヤメ、ヒガンバナなどが含まれます。
小さくてきゃしゃだけど、根から花まで生き物の全部がつまっているコオロギラン。
初めての子ども(小さいけど生きるのに必要なすべてがつまっている)園子ちゃんにささげた草花でした。
-16週の人たち:園子ちゃん+藤丸、波多野、野宮
第16週は、万太郎が植物学者と認められ、研究や植物採集にいっそうまい進する週でした。
一方で、卒業をむかえる藤丸くんや波多野くんがこれからの生き方、進路について悩み、孤独になる週でもありました。
⇒研究に身をささげても報われるかどうかは「運次第」という、競争のし烈さから離れ、自分の道をみつけたい藤丸。
将来、波多野くんと野宮さんは、世界で初めて裸子植物の精子を発見することになります。
野宮さんが初めにイチョウの精子を、つづいて波多野くんがソテツの精子を発見しました。
野宮さんにとっては思いもかけない喜びで、どんなにか誇らしかったでしょう。
波多野くんは野宮さんといっしょに研究していましたが、先にイチョウの精子を発見した野宮さんの名誉を横から奪うようなことはしませんした。
やっぱり、信頼できる波多野くん。
第17週 ムジナモ
-第17週の植物:ムジナモ
江戸川の用水で見つけたムジナモ。浮草のように水中・水面にただよう食虫植物です。
ミジンコなどが主食なので、あまり怖くない感じですね。でも、オタマジャクシを捕食することもあります。
↓大阪「咲くやこの花館」の動画
オタマジャクシが大きくなると、こんどはムジナモが食べられています。
自然って厳しいですが、うまくできています。
多年草で、冬は冬芽を作って、水底で越冬します。
春になるとぐんぐん伸びて、捕虫葉に虫などが触れると1/50秒で葉を閉じて、生き物を封じ込めます。
![](https://hanasjoho.com/wp-content/uploads/2023/07/30b3c0a06a9e240fb484ac17ddd19596.jpg)
Daiju Azuma, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons
現代では絶滅危惧種ですが、埼玉大学から、ムジナモのクローンが実験材料とて供給されています。
– 17週のひとたち:田邊教授、万太郎と決別
第17週は、田邊教授が万太郎を切り捨てる決定的な週となります。
ムジナモが世界的にも珍しい植物だと気づいた田邊教授は、万太郎に論文を発表するよう指示します。
自分の教室から世界的な発見がでると、教授にとっても名誉です。万太郎の運の強さや才能に嫉妬しながらも、受け入れようとする田邊教授でした。
ところが、完成した論文に田邊教授への謝辞が入ってなかったので、教授は激怒。⇒大窪さんによれば共著にすべきだったんですね。
日本では初めての発見であることに気づき、その名前も教えてくれた田邊教授に言及しないのはフェアではありませんでした。
万太郎は、東大植物学教室への出入りを禁止されてしまいます。
田邊教授は自分の「利」になることを望みます。
世界の植物学者たちから「マキノは君の学生か」といった手紙を受け取っていた田邊教授。彼を配下(?)に抱えていることは、教授の利にかなうため、教授は論文を書くように指示したのです。
でも万太郎は、教授の恩にこたえようと論文に力を注ぎすぎて、教授の「利」になるための謝辞を失念してしまっていました。
大窪さんたちに叱られながら、論文を書き直し雑誌も作り直す万太郎ですが、田邊教授の決定がくつがえることはありませんでした。
ムジナモの発見で世界に名を知られた万太郎。東大にある標本や資料にアクセスできなくなり、これからどうなるのか。
福治さんがいうように「いいことがあったぶん、よくねえことが」起こってしまいました。
第18週 ヒメスミレ
第18週は、東大植物学教室への出入りを禁じられた万太郎には、第1子園子の死、高知の峰屋には腐造による廃業、と不幸がつづきました。
第18週の草花 ヒメスミレ:園子
春先に、道端などに咲きます。小さいスミレだな、と思ったらヒメスミレかも。
第19週 ヤッコソウ
第19週は、万太郎と寿恵子が園子を失ったあとの長い喪失と受容の時期を経て、再生へ向かう週でした。
第19週の草花:ヤッコソウ
![](https://hanasjoho.com/wp-content/uploads/2023/07/ee9cbb5c775715178e5028ce0aeeed72-300x211.jpg)
Baldhead1010, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
歌舞伎に出てくる奴さん↓
高知の山本先生が発見し、牧野富太郎が属、種を分類・特定し論文発表しました。
第19週の人々:夫婦たち
いずれ自分たちが死んだときに、園ちゃんに完成した植物図鑑を持っていくと決めた万太郎と寿恵子。寿恵子は、第2子を出産。少しずつ明るさを取り戻していきます。万太郎はマキシモビッチ博士の死を知って、一人でも研究をつづけていく決心をします。
峰屋廃業を報告する竹雄と綾の夫婦。自分が好調を務める女学校の生徒に手を出したと中傷されている田邊教授と聡子も描かれました。
第20週 キレンゲショウマ
万太郎と田邊博士が、それぞれ研究するキレンゲショウマ。
すべてのしがらみから解放された田邊教授が、先に新種として発表。喜ぶ万太郎でした。
第20週の草花:キレンゲショウマ
この特定をして論文にしたのが、田邊教授のモデルである矢田部博士。学名に、分類・特定した人としてYatabeが入っています。
第20週のひと
:田邊教授、魂が自由になる
後ろ盾となる森有礼氏が暗殺されて、すべての役職からはずされる田邊教授。
失意の後、妻の聡子に支えられて植物学の研究にまい進します。
ここで初めて、本当に、田邊教授の魂が自由に。
次の「ノジギク」の週に、万太郎との和解(直接ではないながら)が描かれます。
第21週 ノジギク
叔母のみえの料亭で働き始めた寿恵子。岩崎弥太郎がいいだした「菊比べ」で、寿恵子が紹介したのがノジギクでした。
![](https://hanasjoho.com/wp-content/uploads/2023/07/60c2ed4ae3c681972b6f9d17c03784a2-225x300.jpg)
I, KENPEI, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
*Makinoの後にNakaiが並んでいるのは、もともと牧野富太郎がつけた学名があって、その後、新たな研究で分かったことに基づいて、中井猛之進(東大)が学名をつけて論文発表したためです。
日本のキクの在来種は、ノジギクだけ。
今ふつうに目にする菊たちは、平安時代に中国からやってきた外来種。日本人が長い年月をかけて改良し、美しい姿に育ててきました。
-21週のひと:寿恵子の冒険
ついに働きはじめる寿恵子。
岩崎弥之助など、日本を動かす人たちとの出会いは、寿恵子や万太郎をどう変えていくのでしょうか。
叔母のみえのセリフ、
「金を稼ぎたいんだろ。
あんたの愛嬌。度胸。気働き。全部使ってやってみなさいよ。」
金貸しも味方に変えるかっこいい寿恵子。どう進んでいくのか、わくわくしますね。
第22週 オーギョーチ
-22週の草花:オーギョーチ
オーギョーチは、愛玉子(アイギョクシ)の種からつくられるデザートです。
愛玉子(アイギョクシ)は、イチジクの仲間。つる植物です。
実はかたいのですが、中はイチジクのようにやわらかく、小さな種が入ったジェリーのようで甘みがあります。
↓まん中にうす緑の実。
![](https://hanasjoho.com/wp-content/uploads/2023/07/42bf9ebd5d7233252c405de4cfe99aaa-200x300.jpg)
Vincent Cheng, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
-22週のひと:万太郎の決意
台湾を日本が支配することになって、日本は台湾の住民に日本語を使うよう強要します。
現地の人たちが、愛し親しんできた植物の名まえも変えられることに納得できない万太郎。
人間の欲望から起こる時代の変化に、一植物学者として植物と人とのかかわりを優先して抵抗する万太郎。オーギョーチの学名に台湾語での呼び名を入れました。
⇒万太郎の東大での身分が心配でしたが、徳永教授が守ってくれたようです。
第23週 ヤマモモ
-23週の草花:ヤマモモ
![](https://hanasjoho.com/wp-content/uploads/2023/07/W_yamamomo4061-300x225.jpg)
by Uncle Carl via Wikimedia Commons :kusabanaph.web.fc2.com
-23週のひと:壽恵子の大冒険、渋谷の人たち
東京の中心でしくじった人たちが流れついた渋谷。料理の腕や、芸者としての器量など一流の人たちがすみついています。
寿恵子は、それらの人たちを活用して、えみおばさんのように采配をふるっていきます。
万太郎は、寿恵子の店の守り神として「ヤマモモ」の木を植えるよう提案しました。自分の研究については、図鑑完成まじかになって、まだ出版のめどがたたないことに焦り、出版しても人々に受け入れるだろうかと不安になっています。
第24週 ツチトリモチ
-24週の草花:ツチトリモチ
ヤッコソウのような形の寄生植物で、全身がヤマモモのような赤い色をしています。
-24週のひと:万太郎、たたかう
植物学の研究最先端から外れ、大学では孤独な万太郎。いっしょに研究する仲間がいません。
…全国から、万太郎に質問と標本を送ってくる学校の先生たちとは、心のこもた文通がつづき、万太郎の晩年を豊かにする講演もしています。でももしかしたら、それは東大というバックのおかげかもしれない。万太郎と同じように、植物を自然を守りたいと思ってもらえているのか。
どこにでも生えている植物を愛でるよりも、豊かになること、世界で一流の国になることを最優先する世間の流れに、より孤独を感じていました。
そこにきた南方熊楠からの神社合祀によって失われる民俗などへの危機をうったえる手紙と、野宮さんにからの消滅する植生を何とかしてほしいという手紙。
…国の決定は神社合祀だけでしたが、人間の欲望は合祀によって空いた土地をすべて開発などにつぎこみ、神社の周りの森や林、草花や虫たちは根こそぎなくなっていきます。
万太郎の生きる根っこにある佐川の神社。神社の建物だけでなく、まわりの森、大きな神木(?)全部で万太郎たちの夢を見守りました。
万太郎は、神社の植物たちを守ろうと心をかためます。
第25週 ムラサキカタバミ
-25週の草花:ムラサキカタバミ
ふつうの黄色いカタバミの花はかわいく小さく地味目な感じですが、ムラサキカタバミはスッとしてのびやかです。
よく見かける花ですね。
南米原産で、江戸時代末期に観賞用として入ってきました。抜いても抜いても生えてくるつよい生命力から「要注意外来生物」とされています。
-25週のひと:徳永教授 etc.
神社の植物を守るために、行動を起こす万太郎。東大に迷惑をかけまいと辞表を提出します。
ひきとめようとした徳永教授。
万太郎の決意が変わらないことを知って、万葉集の一首をうたいます。
この雪の 消残る時に いざ行かな 山橘の 実の照るも見む
…大伴家持「万葉集」
…この雪が消えてしまわないうちに、さあ行こう。
雪の中に山橘の赤い実が照っているのを見に行こう。
徳永教授はこの歌を引用して、「神社合祀で、まっ赤なツチトリモチも見られなくなってしまう。その前に、今のうちにいっしょに見に行こう。」といった気持ちを万太郎に伝えたのでしょうか。
徳永教授も、一人の植物学者としては、万太郎といっしょに神社の植物たちを守りたかったのかもしれません。
第26週 スエコザサ
-26週の草花:スエコザサ
ササは、低い山などにびっしりと生えていますね。ヒメネズミなどの小動物や虫たちのすみかやえさにもなっています。
スエコザサもササなので、茎は細いです。1㎝もありません。
*後の研究で、スエコザサはアズマザサ(Sasaella ramosa)の変種であることがわかり、var. suwekoanaと分類されています。
第26週のひと
寿恵子に図鑑をみせるため、万太郎は全国のエキスパートにも助けを求めました。
「どうか。どうか。どうか。」
そして植物図鑑は完成し、物語は終わりました。
キャストのすべての人たちが、人の図鑑をつくりました。
とても、いいお話でした。終わってしまって残念です。